『末弱記者』(森忠明)

末弱記者

末弱記者

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森忠明の小説の単著は、1997年の『グリーン・アイズ』以来もう四半世紀ぶりということになるのでしょうか。森忠明は、自身の少年時代をモデルにした自伝的・あるいは私小説的な作品ばかりを書き続けてきた特異な作家です。繊細で自虐的な男子の内面を活写する技術において、児童文学界で彼の右に出る作家はそうはいないでしょう。他に類をみない個性を持つ作家の久しぶりの本が出たことは、事件と呼んでも大げさではありません。
表題作は「ざわざわ」6号(2021年)初出の短編です。これが最新の作品で、他に「飛ぶ教室」に掲載された短編等が収録されます。
表題作「末弱記者」も、例によって私小説的な作品です、「あんた」に呼びかける二人称のような形式になっているのではじめはとまどわされますが、森少年が『きみはサヨナラ族か』等に登場する親友の有明に宛てた手紙という趣向のようです。小学校高学年時代を「登校拒否」して過ごしていた彼が、中学校では新聞委員となり、文章修行の第一歩を踏み出します。
これだけの繊細な魂を持っていながら森少年はなぜ絶望せずにすんだのか。その理由は多くの森作品で描かれているように、親友の有明の存在と、先達との出会いに恵まれていたことによるのでしょう。この作品では、新聞委員の先輩という身近でありながら大きくみえる先達へのまなざしのあり方が、読みどころとなっています。