『りりかさんのぬいぐるみ診療所 わたしのねこちゃん』(かんのゆうこ)

高原の森のなかに診療所をかまえてぬいぐるみを修復するお医者さんりりかさんの物語の第2巻です。カバーイラストの、人のいない夜の空間の静かな威圧感のすさまじいこと。ぬいぐるみのお医者さんというふわふわしたような設定ですが、第2巻では病院は冥界に近い場所であるという側面に踏みこんでいきます。
第1話の「わたしのねこちゃん」は、りりかさんが雑誌の編集者から取材を受ける場面から始まります。編集者の美和子さんはりりかさんと話しているうちに、かつて不本意な別れ方をしたぬいぐるみのねこちゃんのことを思い出します。そして奇妙ななりゆきで美容師になったねこちゃんと再会を果たします。
ねこちゃんは、引退したぬいぐるみは『思い出の国』に行って新しい生活を始めるのだといいます。この第1話だけを見ると、喪失の物語、喪の物語として穏当にやさしい作品のように感じられます。
しかし、第3話「モーツァルトの願い」で印象はだいぶ変わってきます。どこかで見たことのあるようなはりねずみが森で倒れていた白いがちょうのぬいぐるみを救出して診療所に連れてきたのが、物語の発端。がちょうのモーツァルトは、不幸な捨てられ方をした身の上話を語ります。それによると、思い出の国には車に乗っていくもので、そのときは、「大きなふくろに入れられて、思い出の国行きの停留所に置かれた」のだといいます、第1話では抽象的でしたが、ここではいやに現実的な場面が思い浮かんできます。
カバーイラストにふさわしいあたたかみのある暗さがあるところが、2巻のよさであったように思います。