『ごいっしょさん』(松本聰美)

妖怪に詳しいことが自慢の関洋太は、ふだんあまり接点のなかった宮本修也から突然話しかけられてとまどいます。宮本修也の用件は以前おばあちゃんから聞いたという妖怪「ごいっしょさん」について知りたいというものでしたが、そんなのはどんな妖怪の本にも載っていないと関洋太は否定してしまいます。その後宮本修也が入院したことを知った関洋太は自分の塩対応を反省し、紙に自分の想像した「ごいっしょさん」のイラストと「パワーをくれる」という解説文を書いて宮本修也にプレゼントします。その後、1章ごとに主人公が入れ替わり、4年1組のクラス内でちょっとした困りごとを抱えている子に「ごいっしょさん」の紙や情報が贈られるという、リレー形式の物語になります。
子どもたちの抱える悩みは等身大でちょうどいい具合のものです。友だちの落とし物を拾って言い出せないでいるうちに盗まれたという騒ぎになってしまってどうしたものかと悩んでいる子がいたり、サッカーチームに入りたいのに一歩踏み出す勇気が出せずにいる子がいたり。そんな子たちが「ごいっしょさん」に励まされて前進していくさまが描かれています。
「ごいっしょさん」はそもそも洋太が捏造したものですが、それを手渡していく子どもたちの善意は本物です。善意のリレーが嘘を本物にしていくという優しい世界を素直に描いているところが、この作品の美点です。
ただしそれだけだと、地味でいい話だけどあまり印象に残らないもったいない作品で終わってしまいます。それを防いだ作品の要が、第3章の主人公になる高月由衣という登場人物です。美人でピアノが弾けて勉強もできるという高嶺の花系のキャラクターですが、クラスにひとりくらいはこんな子がいそうというスレスレのラインで現実性を帯びています。この子の悩みもみんなから敬遠されていてなかよしの子がいないのがつらいという等身大のもので、共感を呼びやすそうです。
第5章でも高月由衣は重要な役割を果たします。第5章の主人公の杉崎かおりもピアノを習っている子ですが、「なんでもできる高月さん」「みんなのあこがれの高月さん」への劣等感から憎しみを抱いていました。ところが、よりによって変にテンションの高くなった高月由衣が絵を描いたりして「ごいっしょさん」のことを親切に教えてくれたのです。杉崎かおりは妙に素直な気持ちになって高月由衣の絵をほめると、こんな会話が交わされます。

「杉崎さんって、やさしいね」
「えっ」
「だって、杉崎さんわたしのこと、ほめてくれるんだもの。わたしのこと……たぶん……すきじゃないのに……」

この好きと嫌いの機微が……。