子どもたちの抱える悩みは等身大でちょうどいい具合のものです。友だちの落とし物を拾って言い出せないでいるうちに盗まれたという騒ぎになってしまってどうしたものかと悩んでいる子がいたり、サッカーチームに入りたいのに一歩踏み出す勇気が出せずにいる子がいたり。そんな子たちが「ごいっしょさん」に励まされて前進していくさまが描かれています。
「ごいっしょさん」はそもそも洋太が捏造したものですが、それを手渡していく子どもたちの善意は本物です。善意のリレーが嘘を本物にしていくという優しい世界を素直に描いているところが、この作品の美点です。
ただしそれだけだと、地味でいい話だけどあまり印象に残らないもったいない作品で終わってしまいます。それを防いだ作品の要が、第3章の主人公になる高月由衣という登場人物です。美人でピアノが弾けて勉強もできるという高嶺の花系のキャラクターですが、クラスにひとりくらいはこんな子がいそうというスレスレのラインで現実性を帯びています。この子の悩みもみんなから敬遠されていてなかよしの子がいないのがつらいという等身大のもので、共感を呼びやすそうです。
第5章でも高月由衣は重要な役割を果たします。第5章の主人公の杉崎かおりもピアノを習っている子ですが、「なんでもできる高月さん」「みんなのあこがれの高月さん」への劣等感から憎しみを抱いていました。ところが、よりによって変にテンションの高くなった高月由衣が絵を描いたりして「ごいっしょさん」のことを親切に教えてくれたのです。杉崎かおりは妙に素直な気持ちになって高月由衣の絵をほめると、こんな会話が交わされます。
「杉崎さんって、やさしいね」
「えっ」
「だって、杉崎さんわたしのこと、ほめてくれるんだもの。わたしのこと……たぶん……すきじゃないのに……」
この好きと嫌いの機微が……。