『タブレット・チルドレン』(村上しいこ)

コンピューターでマッチングされたペアでタブレット上のAIの子どもを育てるという校外学習プログラムに参加させられた中学2年生の物語。クラスカースト下位で漫画家志望の女子心夏は、勝手に自分の漫画の主人公にしているサッカー部のイケメンと組めるかもとドリームを抱いていましたが、ペアになったのは自分と同じくカースト下位の男子温斗で、育児にも非協力的。そしてAIの子どもは「わたしのこと、愛してる」「じゃあ、証拠を見せて」などと露骨な試し行動をしてくるめんどくさい子で、前途多難となります。
もちろんこのプログラムは人権侵害ですし、端的にいって気持ち悪いです。子育てを体験することによって親の立場を知り、作中の言葉でいえば「共感」の力を獲得するという、表面上教育的にみえる要素はあります。それにしても、強制マッチングという発想はセクハラめいていて気持ち悪さは拭えません。
厄介なのは、この作品は笑えるということです。YA作品ではいつも封印されている著者のギャグセンスが、この作品では発揮されています。キャラクターのかけあいは漫才のようですし、漫画家志望の語り手の内心つっこみもおもしろいです。シリアスな場面から唐突に主人公がラブコメに巻きこまれるという不条理ギャグなんかも秀逸です。
そして、脱力なのが巻末のおまけ。この作品は悪ふざけで作られているとしか思えません。メタ的に疑うならば、漫画家志望の語り手が現実を脚色して悪ふざけをしている可能性も考えられます。
結局のところこの作品が示しているのは、恋愛も生殖も子育ても人生そのものも悪ふざけであるということなのでしょうか。村上しいこ作品の絶望の深さを考えれば、こういう極端な解釈もありえそうです。