『グレイッシュ』(大島恵真)

第58回講談社児童文学新人賞佳作を受賞した大島恵真の、受賞後第一作。受賞作の『107小節目から』と同様の、重苦しい毒親小説です。
中学2年のみゆるは、両親が美大出で父がカメラマン母がデザイナーという芸術一家の子どもです。しかし実態は華々しいものではありません。父にはあまり仕事がなく、家族にDVをはたらくようになります。チラシのデザインなどの母の仕事の報酬で、一家は細々と食いつないでいる状態です。さらに母親の方も、みゆるの描く絵に威圧的な口出しをするなど、モラハラ体質でした。
みゆるは、自分の家庭に問題があることを自覚しています。しかし、その現実と現実を認めたくない思いの間でぐるぐるゆれています。現実がみえているだけに、みゆるの苦悩は序盤から鬱々としています。
ひとつの逃げ場としてみゆるは母方の祖母のもとに赴きます。しかしそこでは、祖母も母に対してモラハラをしていたことがわかり、安心できる逃げ場とはなりません。
そんな陰鬱な空気のなかで救いとなるのが、美術の先生が家庭に問題を抱えた子を集めてやっている放課後スケッチクラブの存在です。先生は深刻な話を聞いても「そっかー」とか「えーまじで!」というような軽く思える言葉で流すばかりなので、みゆるははじめは本当に役に立つのかと懐疑的でした。しかし、傷ついた者同士のゆるやかな連帯のなかで心は次第に前向きになります。また、生活保護の大切さを知るといった具体的な成長も得られます。
主人公が絵を描く子なだけあって、絵画的イメージも鮮烈な印象を残します。特に、木と木の間の空間に人の独立性と適切な距離を感じる視点は、示唆に富んでいました。nakabanによる抽象的なイラストも、作品にマッチしています。
リアルな絶望を描きながらも確かな希望も指し示す、バランスのよい作品でした。