『妖怪コンビニ 店長はイケメンねこ!』(令丈ヒロ子)

拾ったばかりのねこのうめ也とママとのふたりと一匹での新生活を始めたばかりのアサギは、趣味のコンビニクッキングのため、近所のコンビニ探査に出かけます。近所にコンビニは3軒だけだったはずなのに、うめ也についていくと「ツキヨコンビニ」という4件目のコンビニに到達します。中に入ると、人間サイズになって二本足で立っているうめ也に捕獲され、イートインコーナーに座らされます。うめ也の説明によるとここは本来生きている人間は入れないはずの人外専用のコンビニで、自分はここの店長をしているとのこと。うめ也はアサギの身を案じて人外コンビニに関わることを推奨しませんが、コンビニの社長秘書の巨大うさぎ玉兎さんの許可が出て、アサギはコンビニに出入りするようになります。
2021年刊行の『妖怪コンビニで、バイトはじめました。』から派生した作品です。掃除が得意なスライム型妖怪の店員もちこちゃんや、バナナ型妖怪の常連客ばなにーさんなど、個性的なおもしろ人外を次々と繰り出して読者を楽しませる手腕の確かさは、令丈ヒロ子なので安定しています。
料理が物語の大きなテーマになり、工夫を凝らして客をもてなす喜びを描いているところは、若おかみシリーズを彷彿とさせます。しかし、高級旅館の春の屋の料理とコンビニで買えるものを使ったお手軽料理では方向性が全く異なり、若おかみシリーズとは一風変わった楽しさを提供してくれます。
もともと料理が苦手だったアサギのママは、新生活を機に料理を放棄し、冷凍食品や出来合いの惣菜ですませるようになります。アサギは人には得手不得手があるのだからと、ママの選択を全肯定します。2021年の『クルミ先生とまちがえたくないわたし』もそうでしたが、令丈ヒロ子は女性は家事ができなければならないという旧弊的な価値観に正面からケンカを売っています。
この作品のテーマのひとつに、家父長制との戦いがあるようです。パパとおばあちゃんがいた以前の生活についてはあまり具体的には語られませんが、かなり重苦しいものであったようです。また、時にうめ也がみせる過保護なふるまいも、批判的に描かれています。
とはいえ、基本は令丈ヒロ子らしい一級の娯楽作品です。おもしろ人外たちが今後どのような騒動を繰り広げていくのか、続きが楽しみです。