『お江戸豆吉3 風雷きんとん』(桐生環)

けんかっぱやい若旦那とふたりで菓子屋を切り盛りする少年豆吉の物語第3弾。豆吉はお使い中に、激突して金を奪うタイプの荒っぽいスリに遭遇してしまいます。お駒ちゃんの協力で犯人を捕まえますが、犯人は訳ありの子どもで、豆吉や若旦那やけんか仲間たちはその処遇に悩みます。
大金をなくしてしまった豆吉はさすがに若旦那に激怒されるのではないかとおびえます。でも若旦那は豆吉の心配をするばかりで全然豆吉を怒ろうとしません。若旦那は、「職人の大事な利き手にケガをさせた」ことに激怒します。修業中の豆吉のことも職人として尊重してくれる若旦那。若旦那の株の上がり方はとどまることを知りません。他のけんか仲間も、どんどん株を上げていきます。もめ事をおもしろがっているようなそぶりで集まりながら、おいしい食べ物の差し入れも忘れない気配りのうまさ。このシリーズに登場する大人たちは人間ができすぎていて、ちょっと気後れがしてしまうレベルです。
クライマックスの泣かせどころは、もう何回も見ているパターンではあるのですが、それをうまく盛り上げて最高のかたちで料理してくれます。そして、最後の締めに出てくる若旦那のお菓子が、男男の関係性をテーマにしたものでめちゃくちゃエモい。粋というのはこういうことなのだと教えてもらえます。
落語世界の人情噺風の枯れたエンタメとしてのうまさが、このシリーズの最大の長所です。しかし、それと同時に最先端の児童文学でもあるという面も見逃すことはできません。
作品の隅々に、ジェンダー配慮が行き届いています。たとえば豆吉は、同世代の女子と比べても腕っ節の強さで大敗する子ですが、「絶対勝てないし、勝たなくていい」とし、彼の「気が弱くて、まじめで、ひたすらまっすぐな」長所をたたえられます。
そして、今巻の中心となるスリの子の扱い。考えすぎるタイプの豆吉はその子への接し方、考え方に思い悩みます。もちろんそこは豆吉のよいところなのですが、作品はどんどんその先に進み、変幻自在な性のあり方を提唱します。
如月かずさの『スペシャルQトなぼくら』もそうでしたが、日本の児童文学ははっきりと線引きをすることに疑義を呈する方向に進もうとしているのかもしれません。これも重要な論点であるように思います。