『父さんのゾウ』(ピーター・カーナバス)

オリーブは父さんとおじいちゃんと一緒に暮らしています。母親はオリーブが幼いときに亡くなっていました。父さんはその悲しみにずっと囚われています。オリーブには父さんのゆううつが、巨大なはい色のゾウに見えていました。オリーブはどうにかしてゾウを父さんから引き離そうとします*1
という陰鬱な設定の物語ですが、オリーブを手助けしてくれる脇役たちが安心感を与えてくれます。やせたかかしみたいなおじいちゃん。オレンジ色の鳥の巣みたいな髪の毛が爆発していて、机の上も乱雑な抜けたところのあるマーチ先生。うんていに足を引っかけて逆さになった状態で語りあえる友だちのアーサー。オリーブはたくさんの人々に支えられています。
マーチ先生が出した「古くてすばらしいもの」を探すという課題が、物語を引っぱっていきます。人生の物語をつくる「古くてすばらしいもの」は、不幸の裏には幸福もあるというような世界の両義性を洗い出していきます。
オリーブと父さんをケアしてきたおじいちゃんも、ある事件をきっかけにはい色のカメに取り憑かれます。ここでおじいちゃんを救ったのはオリーブでした。ケアする側とケアされる側の関係は一方的ではないという複雑さも描かれます。
そして、不幸の象徴にみえたはい色の動物にも別の側面があり、それが感動的な結末を導いていきます。
一面でははかれない世界のありようを丁寧に描いているので、はい色の世界もカラフルに塗りかえることができるというシンプルなメッセージに強い説得力が与えられています。

*1:ただし、はい色の動物はその人の悲しみが具現化されたようなものではなく、オリーブにそう見えているというだけです。よって、動物を退去させるというかたちの解決はあくまでオリーブの内的世界のなかのものであるということには注意が必要です。