『25センチの恋とヒミツ』(神戸遥真)

身長が高いことに悩んでいる中1女子優衣と身長が低いことに悩んでいる中1男子コータの25センチの格差ラブコメです。コータは冬休み中に、高身長でロリータ服を着ていて非常に目立っている二人組を目撃します。よく見るとひとりはクラスメイトの優衣。優衣は悲鳴をあげて逃げ出し、コータは優衣の同行者に連行され事情を説明されます。優衣の同行者は、叔父のモモちゃん。身長が高いためにクールでカッコいいキャラを期待されている優衣は、実はかわいいのが好きで、本人によると「出来心」でモモちゃんと一緒に初詣に出かけようとしていたとのことでした。コータは優衣の秘密を知ってしまった代償として、少女まんがが好きであるという自分の秘密を打ち明けます。このことをきっかけにふたりの仲が近づいていきます。
「思いこみで人を判断してはいけない、人に勝手な期待を抱いてはいけない、相手の意思を尊重しよう」と、テーマを言葉にしてしまえば簡単なのですが、それを実行するのは困難です。身長の低いコータは「かわいい」ものとして消費されることを苦痛に感じていました。
優衣はスラックス制服を選んでしました。制服を選択できるようになったのは進歩ですが、そこで苦しんでいる子に目を向けたのは慧眼です。優衣は自分にかっこよさを求めてくる親友の美結菜の圧に負けて、本当はスカートをはきたいのにスラックスにしていたのです。優衣・コータ・モモちゃん以外にも作中には「ふつう」に反するキャラが何人も登場して、偏見を解きほぐしていきます。それにしても終盤で(ややネタばらしになるので、数行白文字にします)優衣もある思いこみに囚われていたことが明らかになる展開は残酷でした。2周目読むと、39ページ2行目とか81ページとか85ページ5行目とかの優衣の言葉の無邪気さに震えてしまいます。
クラスでおこなう「白雪姫」の劇が、物語の軸のイベントになります。現代の子どもは当然、勝手に姫を連れ去ろうとする王子を「ヤバいヤツ」と認識しています。そこに、最後のシーンで付け加えられたささやかなアドリブが、新時代の希望を感じさせてくれます。