『カトリと眠れる石の街』(東曜太郎)

第62回講談社児童文学新人賞佳作受賞作。19世紀後半のエディンバラを舞台にした世界名作風の冒険小説です。
主人公は、旧市街の金物屋の娘カトリ。街の悪ガキどものリーダー格で、男物のジャケットにスカートを合わせたファッションがトレードマークです。カトリが上流階級の娘リズの乗る馬車に轢かれかけたところから、運命は動きはじめます。治安がベルばらの最悪の出会いでしたが、これをきっかけにカトリは、リズがおこなっていた周囲で蔓延しつつある眠り病の調査の協力をさせられることになります。街の医者のカルテを黙って拝借したりと危険な橋も渡りながら、ふたりは街に隠された秘密に迫っていきます。
狭い場所に増築が繰り返され石造りの立体的な迷路のようになっている舞台が魅力的です。このステージでカトリたちは様々な立場の人と対面して対話し、見聞を広めていきます。こういった構成は、上野瞭作品を連想させます。行動範囲が少しずつ広がり視野も広がっていくというシンプルな楽しさを味わわせてもらえます。
カトリは元々未知なる世界を求める知的探究心の強い子で、読書や歴史の勉強を好んでいました。しかし、自分の将来は親の後を継ぐものだと思いこんでいます。一方のリズは悪くいえば世間知らず、よくいえば偏見なく合理的な思考ができる子で、冷静にカトリの思いこみを解きほぐしていきます。冒険小説と成長物語の二面からカトリの視野が広がっていくさまが描かれます。
終盤のラストダンジョンでの冒険は大いに盛り上がり、真相はあんな感じになります。もしかしたら、日本の児童文学ではあまりみられないスケールのファンタジーの書き手が登場したのかもしれません。次回作に期待がふくらみます。