『お月さまになりたい』(三木卓/作  及川賢治/絵)

1972年の作品の改訂版が登場。画家は佐野洋子から及川賢治に交代しました。
学校からの帰り道、「ぼく」は、胴長で白と茶のぶちの変な犬に出会います。これが白い犬だったら飼いたいと「ぼく」が思うと、犬は真っ白になります。なんとこの犬は、変身能力と読心能力を持つ超能力犬でした。「ぼく」は犬と楽しく会話をするうちに、月に変身したいという犬の悲願を知ります。
「一万円札になってよ」と頼まれると「そんな、いやしいものに、なりたくありません」と拒絶するような高潔なところもあり、「ぼく」が他の犬にデレデレすると恐竜に変身して脅かすような嫉妬深いところもあり、いろんな面をみせる変な犬に「ぼく」はすぐに魅了されます。風見鶏になったり気球になったり、奇想天外な変身で読者を楽しませてくれます。
それでいて、作品世界に漂っているのは強烈な寂寥感と孤独感です。必然的にひとりになってしまうのに月への変身を目指す犬と、一日の終わりの寂寞に感じ入ってしまう感性の持ち主である「ぼく」。ふたりの鋭敏な感性が響きあって、世界の美しさが照らし出されます。