『黒ゐ生徒会執行部』(にかいどう青)

怪奇現象に遭遇した少年少女を救済する機関であるという「黒ゐ生徒会執行部」に迷いこんだ「きみ」が、生徒会長と副会長兼書記兼会計兼広報兼庶務のふたりから「黒ゐ生徒会執行部」が関わった不思議な話を聞かされるという趣向のホラー短編集です。
第1話「姉」では、にかいどう青らしい壊れた文字列の狂気で、まずもてなしてくれます。第2話「余命カウント」は、背中に指文字で余命カウントが書かれるという発端から恐ろしいですが、「黒ゐ生徒会執行部」の介入がさらなる悲劇を生みます。
第8話「さよなら未遂」は、ゾンビウイルス的なものに感染した女子をかくまおうとする男子の物語。ここでは、にかいどう青の文章芸が直球のエモを生み出しています。気になるのは、「さよなら未遂」というタイトルです。これは、現代児童文学を切り開いた古田足日の評論「さよなら未明」を連想させます。未明へのさよならが未遂に終わったということは、にかいどう青は未明への回帰を目指しているということなのでしょうか。
第9話「#拡散飢亡」は、見るだけでダイエットができるという動画をめぐる物語。ここでは、生理的気持ち悪さに特化した恐怖を味わわせてもらえます。第10話「好き好きDIE好き」は、どこに出しても恥ずかしくないりっぱなヤンデレストーカーの話。第8話や第10話のようなベタなやつも、にかいどう青の超絶技巧でお出しされると効果は倍増します。
作中では、「指」「存在しない存在」「無限の檻」「ウイルス」のモチーフが繰り返されます。『SNS100物語 赤い望み』なんかも記憶に新しいところですが、人体のパーツとしての指は、にかいどう作品ではしばしば不気味なものとして異化されます。それでいて今回は、ベタなエモにもうまく利用されます。にかいどう青は指が大好きなようです。
「存在しない存在」「無限の檻」は、怪異の性質そのものです。そして、「ウイルス」というモチーフは感染症としての怪異を示し、怪異に変容できる可能性を万人に開きます。
これらのモチーフが、作品の最後に「きみ」が選択を迫られるという大オチにつながります。注意すべきポイントは、「きみ」に与えられる選択肢はフェアな二択ではないということです。(以下白文字)実在するドアと油性マーカーで描かれた通り抜け可能か判然としない虚構のドアを等価なものとして並べるのはフェアとはいえません。いや、作品世界はそもそも虚構なので、虚構のなかの虚構のドアは現実のものに反転しうるというこじつけも可能かもしれません。さて、「きみ」はどちらのドアを選ぶべきなのでしょうか?