『奉還町ラプソディ』(村中李衣)

大政奉還で配られた奉還金で商売を始めた武士たちをルーツとする歴史ある商店街、岡山市奉還町商店街を舞台とする連作短編。山口から岡山に引っ越してきたさとしとまんじゅう屋の息子のあつしのコンビが、商店街の奇天烈な大人たちを観察します。
第1話は、「べにや」というレディースファッションの店の店主がクローズアップされます。べにやの店主のおっちゃんは、いつも腕組みをして店も前に立っています。なんか威圧的でレディースファッションの店に似つかわしいようにはみえません。そんな店で目立っているのが、マネキンさんたち。マネキン、マネキンか……、直近でなにかトラウマ的なやつがあったような……。ここでも村中李衣は、おっちゃんとマネキンさんたちが一緒に空を飛ぶという悪夢的だけどおかしさもある奇妙なヴィジョンをみせてくれました。
第2話の理容店のエピソードでは、クジラやらタヌキやらイノシシやらいろいろな生物の毛を使ったブラシが登場し、さながら博物館のようになります、小さな店が抱える膨大な情報量に頭がクラクラしてしまいます。
それぞれの歴史性を背負った大人たちの姿を子どもの視点を通して魅力的に活写した、ベテランの技の冴えが光る作品集でした。