『うそつき王国とジェルソミーノ』(ジャンニ・ロダーリ)

小さい文庫サイズだからこそかわいらしさが映える本のデザインが最高です。
なぜかここ数年、講談社文庫はイタリアを代表する児童文学作家ジャンニ・ロダーリの作品を熱心に刊行しています。この作品は、おそろしい大声を出すことのできる少年ジェルソミーノの物語です。その大声は、様々なものを吹き飛ばしたり破壊したりできるレベルの猛烈なものでした。この特技のせいで心静かに生活できなくなったジェルソミーノは旅に出て、元海賊の王が作った法律のせいで住民が嘘しか言えなくなった奇妙な国にたどりつきます。
本物のお金を出すと買い物ができないので、ジェルソミーノは食料を買うために偽物のお金を探すという意味不明な苦労をまず強いられます。とまどうジェルソミーノの前に現れるはじめての友だちは、落書きから生まれた三本足のネコ。世界がどんどんナンセンスになっていきます。
と、設定はフリーダムですが、作品世界の根底にあるのは実直な生真面目さで、そこに好感が持てます。ジェルソミーノは地元チームのサッカーチームの応援をしていたとき、うっかり大声の力を発動させてボールの軌道を変え、地元チームに1点与えてしまいます。これはフェアではないと思ったジェルソミーノは、律儀に地元チームのゴールにもボールを入れます。
ジェルソミーノのほかにもうひとり、特殊な体質の聖人を紹介します。それは、「立ちっぱなしのベンヴェヌート」と呼ばれている人物です。ベンヴェヌートは座っていると常人より早く老化してしまうという厄介な体質で、老化を避けるためにいつも立っていました。ただし、この体質には立ちっぱなしでいると不老になるという特典(?)もありました。でありながらベンヴェヌートは、いくつもの場面で他人のために自分を犠牲にし、座って老化を早めるという選択をします。
不可思議な設定が作中人物の善性を引き立たせて、作品世界に芯の通った倫理観を与えています。