『嘘吹きパスワード』(久米絵美里)

「というか、ハッキング関連の言葉って、無駄にカッコつけた横文字、多すぎじゃない? ショルダー・ハッキングとか、ダンプスターダイビングとか、下手に必殺技みたいな名前つけるから、安易な人がまねして、犯罪者になるんじゃないの?」

「どっちも、必殺技どころか、地味で姑息な恥ずべき行為なんだから、『変態のぞき魔泥棒』とか『こそこそゴミ漁り小僧』とかにすれば、ちょっとは恥ずかしい行為だって認識も広まるんじゃないの?」

『嘘吹きネットワーク』の続編。ネットトラブルでいろいろやらかしていた理子と、「嘘吹き」という特殊能力を使って愉快犯的行動をしていた錯も、中学に進学しました。夏休みに理子の正義の暴走が発動。暇を持て余しているとまた錯が悪事に手を染めるのではないかと懸念し、錯を管理しようと乗りこんできます。そこに錯のいとこも乱入してきます。錯と同じく一族の仕事をしているいとこ氏に理子の友だちの鞠奈が恋愛感情を抱いてしまって、話がややこしくなってきます。
ネットトラブルの話題から「哲学的な自分のゆらぎ」の問題にまで屁理屈を飛躍させてしまうのが、このシリーズのおもしろいところです。
ラストバトルで起こっていることは、実はありふれたつまらないネット犯罪です。しかし、超能力設定と炸裂する男男巨大感情、屁理屈とハッタリを武器にする頭脳バトル展開によって、それはもう盛り上がるわけです。理屈を好むタイプの子どもにとってはおいしいエンターテインメントになっています。
ちょっと驚かされたのは、終盤の危機で教職の大人に助けを求めようとした理子が、このような述懐をしていたことです。

教師という職業の多忙さが話題になっている昨今、原田先生夫妻のある種、時代と逆行するやさしさにつけこんでしまっている自分に、理子は少し嫌気がさしたが、それでも今は、たくさんの人に頼るしかなかった。

ブラック労働者に過剰なサービスを要求してはならないという現在ではまだ世間に浸透しきってはいない倫理的規範を、作中の子どもや読者の子どもに求めているわけです。最新の児童文学にはここまでの配慮が必要なのかと瞠目してしまいました。物語の中盤には詐欺のカモリストについての講釈があり、ここで善意につけこむ詐欺の手口にも触れられています。このことを考えると、作品のテーマと齟齬をきたさないように予防線を張っているともとれます。どちらにせよ、この周到さは賞賛されるべきです。