『開けてはいけない』(黒史郎・染谷果子・波摘)

四角いものをテーマとしたホラーショートショート競作本です。参加作家は黒史郎・染谷果子・波摘、イラストは谷川千佳と、なかなかの布陣です。本は内容にあわせて真四角になっています。装丁が演出の一部になっている本は、やはりいいものですね。
染谷果子「コ、コ、コン」は、破局したはずの彼女が鳴らすノックの音を聞きながら恋の顛末を回想する男の物語。はじめから病み感爆裂で怖く、だからこそオチが引き立ちます。ここぞというときにイラストを出してくるのもいいですね。
同じく染谷果子の「マシカクパワー」は、指で正確な真四角を描けると異次元に行けるという都市伝説が流行する話。頭のおかしい都市伝説が、原初的な恐怖につながっていきます。
波摘作品で怖かったのは「おいでおいで」。放課後の学校でかくれんぼをしていた子どもが開けてはいけない四角い引き戸を開けてしまう話。怪談としてオーソドックスな作りで、破局までの追いこみ方がうまかったです。
黒史郎の「すべてを失う夜」は、星新一風の洒脱なショートショート。豪邸に押し入った強盗が、意外なセキュリティ対策で本当にすべてを失ってしまいます。
黒史郎作品で一番好きなのは「マシカク村」。奇妙な村に迷いこんだ人の報告がSNSに投稿されるというきらさぎ駅的趣向の作品です。終盤の、小説でしかなしえない狂気の加速度は圧巻です。