『ジャングルジム』(岩瀬成子)

家族をテーマにした短編集。
はじめの「黄色いひらひら」は、おいと社会不適合者のおじの物語という児童文学の王道のやつです。王道だからこそ、達人の手にかかると最高の滋味を実現してもらえます。良太の家に、住所不定で職を転々としているおじが転がりこんできます。良太の両親はずっと同じ仕事を続けていて定住している人なので、おじの生き方は良太の想像を超えています。ある日曜日、良太はおじにドライブに誘われ、気乗りしないものの「ことわっちゃ悪い気がした」から承諾します。
車中でおじは「きのうの晩、どんな夢を見た?」「朝、学校に行くときには、どんなことを考える?」「なにがこいわいの」と、みっつの問いかけをします。この会話の噛みあわなさから、徐々に共感の回路を開いていく過程がみどころです。ここに迷子の女子という第三者が挟まることで、良太とおじの距離感はだいぶ詰められます。少年が新たな価値観に触れて変化する様子を端的に描いたさわやかなラストが印象に残ります。
ラストの短編「からあげ」も、おじいちゃんが急に家に同居することになるという発端は重苦しいです。でも、コンビニで「からあげ」を買い食いするというなじみやすい行動をきっかけに、孫との関係が築かれていきます。樫崎茜の初期作品『ヨルの神さま』でファミチキがキーアイテムになっていたことなんかが思い出されます。
表題作「ジャングルジム」は、ひよわなおねえちゃんを守ろうとする妹の物語。自分は勇気があって強いのだと自負している妹は、おねえちゃんにいやがらせをする女子からジャングルジムの上から飛び降りるという勝負を持ちかけられます。
一部の児童文学では、この手の度胸試しを勇気の証明やある種の通過儀礼として肯定的に描くケースもみられます。しかしこの作品は、事後にわきだした妹の恐怖心をすくい上げることで、これはただの暴力被害でしかないのだということを明らかにしています。子どもをめぐる暴力や悪に誠実に向きあっているところが、岩瀬成子らしいです。