『ピースがうちにやってきた』(村上しいこ)

母親が精神疾患を抱えているという、村上しいこらしい重いテーマを扱った作品です。
サチの母親は、赤ちゃんねこを拾ってきます。母親がねこを抱きしめている様子を見てサチの心は震え、それを止めるために右手の爪で左手の甲をつねります。サチは母親から抱きしめてもらったことがありません。母親によると、「だっこすると、かべになげつけたり、へんなことをしてしまいそう」だからだとのこと。学校は学校でこどもの日におかあさんにだっこしてもらおうというそれぞれの家庭の事情を顧みないクソ課題を出してきて、サチを苦しめます。
母親が線路の前に佇み、サチが「危ないよ、早く出てきて!」と呼びかけても「うん、まあね」というわけのわからない返事をして動こうとしないというのが、冒頭のシーンです。母親が決定的に現世から浮いているということを印象づけるうまい出だしです。
また、友人関係の機微の描き方も村上しいこらしい匠の技が光っています。友だちから多少理不尽なことをされてもその子のことが好きという、大人からは理解されにくい関係性をうまく描いています。
ただし、結論として子どもが大人をケアすることを美談のようしているのは、児童文学としては問題です。