第33回
小川未明文学賞大賞作品。小学五年生の伊吹の兄のほーちゃんは「わたしとはぜんぜんちがう人間」で、授業中に校庭に出て馬の
ギャロップのように走ったりする人でした。登校は
NPO法人に所属している青年トモさんにつきそってもらっていて、ふたり一緒に走るさまは『
スーホの白い馬』の世界のようでした。そんなほーちゃんは、「修学旅行のしおり」を持ち帰ってからずっと
山陽新幹線の駅名を呪文のように唱えていて楽しみにしている様子でしたが、インフルエンザにかかって行けなくなってしまいました。その後伊吹のもとに、トモさんが
NPO法人の人々などを巻きこんでほーちゃんの修学旅行をやりなおそうと計画しているらしいという情報が飛びこんできました。知らないうちに伊吹も参加メンバーに入れられていました。あまり気の進まない伊吹でしたが、病弱な親友のコトコも仲間に加わることになり、計画に協力していきます。
おおらかなユーモア
*1と関西弁のやわらかい言葉遣いで、心地いい作品世界が形成されています。様々な事情を抱えた登場人物が多くて複雑なのですが、注目すべきキャラが出てくるたびに回想に入り詳しく説明する構成になっているので、さくさく読み進めていけます。伊吹はコトコに、絶対に「ありがとう」といわないでほしいとお願いします。その理由は、父親の親友で「ありがとう」をいわない主義の
身体障害者のマコさんのエピソードを次に語ることですぐに明かされます。どの登場人物も好感度か高く、人とのつながりの連鎖で伊吹が成長していくさまがさわやかに伝わってきます。
作品世界の端正さゆえに、
ノーマライゼーションの思想もすスッと腑に落ちてきます。たとえば、大勢で旅行をするときになにを優先すべきかという問題。集団の中でもっとも弱い者を優先すべきで、そう考えるとそれはほーちゃんでもコトコでもないよねという論理展開は明解で、納得しやすいです。
障害があろうがなかろうが、人と人が完全にわかりあえることはありません。不完全な理解の途上で、少しずつ進んでいくしかありません。作中人物たちの今後も、この修学旅行の結末すらわかりません。すべては道の途上です。あえて途上ですっぱり物語を切り上げ、ともに空を見上げたという確かな事実だけを美しい記憶として凍結し保存したエンディングに、作者のセンスが光っています。