各話とも主役の子が少し視野を広げ、そこに吉岡の昆虫雑学が絡んでいきます。視野を広げることの残酷な面も提示しているのが、この作品のつらいところであり、美点でもあります。視野を広げることは、それまで見ていた世界を変質させることであり、いままでの自分の愚かしさに直面させられることでもあります。たとえば小野航平は工業高校に進学した先輩たちとつるんでそれなりに楽しくやっていましたが*1、高校生にもなってセミを踏み殺して喜んでいるような人たちはダメだろうということに気づいてしまい、それまで見ていた世界が急速に色褪せてしまいます。こういう致命的な瞬間の切り取り方が巧みです。
もちろん、視野を広げることは基本的には前向きな営為です。吉岡を中心に五人をつなぐ流れは、あざとさはあるもののきれいに収束します。閉塞感に悩まされる子どもを支え導く優しい作品を生み出してくれたことに感謝します。
*1:作中において工業高校の生徒ばかりが悪役・愚者役を引き受けさせられているのは気になる。わかりやすいフォローがあってもよかったのではないか。
