『15歳の昆虫図鑑』(五十嵐美怜)

第64回講談社児童文学新人賞佳作入選作。東北の田舎町を舞台とし、ホタルの住む川の清掃のボランティアでつながりを持つ五人の中学三年生が主役を務める連作短編。参加希望を表明したのは、最終話の主役の都会から来た虫オタクの転校生の吉岡蛍子のみ。第1話の主人公の鈴木真優は、ボランティアに興味はあるけど所属している女子グループの遠藤咲が吉岡のことを嫌って悪口ばかり言っていたので、参加希望を言い出せずにいました。第2話の主人公の長谷部健都は、自分が男性も女性も好きになる人だと気づきはじめていて、ALTのニックがゲイであることを知り少し前向きな気持ちになっていました。でも、片思いの相手の小野航平が直球のホモフォビア発言をしたことに落胆します。第3話の主役は小野航平、第4話の主役は遠藤咲が務めます。どちらかというと被害者側の子を前半の主役にし、どちらかというと加害者側の子を後半の主役に据える構成がおもしろいです。
各話とも主役の子が少し視野を広げ、そこに吉岡の昆虫雑学が絡んでいきます。視野を広げることの残酷な面も提示しているのが、この作品のつらいところであり、美点でもあります。視野を広げることは、それまで見ていた世界を変質させることであり、いままでの自分の愚かしさに直面させられることでもあります。たとえば小野航平は工業高校に進学した先輩たちとつるんでそれなりに楽しくやっていましたが*1、高校生にもなってセミを踏み殺して喜んでいるような人たちはダメだろうということに気づいてしまい、それまで見ていた世界が急速に色褪せてしまいます。こういう致命的な瞬間の切り取り方が巧みです。
もちろん、視野を広げることは基本的には前向きな営為です。吉岡を中心に五人をつなぐ流れは、あざとさはあるもののきれいに収束します。閉塞感に悩まされる子どもを支え導く優しい作品を生み出してくれたことに感謝します。

*1:作中において工業高校の生徒ばかりが悪役・愚者役を引き受けさせられているのは気になる。わかりやすいフォローがあってもよかったのではないか。