『カフェ・スノードーム』(石井睦美)
なんとあきれるほど気品のある装丁であることか。出たばかりの本なのに、名作児童文学の香気が漂ってくるかのようです。
タマルさんという異様に巨大な女性が主人の「カフェ・スノードーム」に訪れる人々を描いた連作短編。「カフェ・スノードーム」という名前なのにカフェではないというところから、人を食っています。タマルさんのなかには人々の記憶や感情が入っているから大きいのだという設定も魅力的です。
第1話の主人公は、妹との関係に不満を持っている子。この子が「いきたいとこにいけるなら、いまいるとこにいないでしょ。 いまいるとこからでられなきゃ、いきたいとこにいけないわ」というマザーグースの詩を口ずさみながら家出をするあたり、いかにも児童文学が好きな大人に受けそうであざといです。
悩みを抱える子どもが「カフェ・スノードーム」を訪れることで癒やされたり成長したりというパターンで作品を組み立ててもよいはずですが、第2話で以前「カフェ・スノードーム」に行ったことのある男性が三十年ぶりにそこを探すエピソードを出して、さっそく脱臼させてきます。現在の男性と過去の男性が混濁する眩暈感が読ませます。
第4話の主人公は、タマルさんの思惑を軽く超えてきます。雨の日でもないのに黄色いレインコートとかさとながぐつを装備して黄色星人に変身したのだというこの子は、とことんフリーダムに振る舞って強烈な印象を残します。
最後の話では、唐突な宙返りを披露して、読者を困惑させて終わります。こういうわけのわからなさも、児童文学の醍醐味のひとつです。
近年の石井睦美の、児童文学の核にある蜜を的確に剔出して原液で読者に浴びせる手腕のあざやかさには、目を瞠るものがあります。装丁を含めて、シンプルによい児童文学を読んだという満腹感を与えてくれます。
