『ささやきの島』(フランシス・ハーディング   エミリー・グラヴェット)

ケイト・グリーナウェイ賞画家のエミリー・グラヴェットのイラストがたっぷり入った横書きの本。東京創元社でこの形式の本だと、サリー・ガードナー&デイヴィッド・ロバーツの暗黒メルヘン『火打箱』の恐怖が思い出されます。
霧に覆われたマーランクの島では、死者の魂は自然に旅立っていかないので、渡し守が船で死者の世界への入り口となる〈壊れた塔の島〉まで導いていました。物語の主人公は渡し守を父に持つマイロ。死んだ娘を蘇生させようという欲望を持ってしまった領主に、父は殺されてしまいます。逃げ出したマイロは、領主の娘ほか数名の死者を引き連れて、父の後を継ぐはずではなかったのに思いがけずはじめての航海に乗り出します。
冥府に向かうファンタジーで、船・海・鳥・月・塔といった道具立てが薄暗い雰囲気を盛り上げてくれます。観光的なファンタジーとして楽しませてもらえます。
逃走劇としてエンタメの軸がしっかりしているので、観光的ファンタジーでありつつ読みやすいところも、この作品のよいところです。逃走劇を支えるのは、追跡者キャラの魅力です。領主が雇った魔術師は固有名で呼ばれず、まとっている衣の色から「白の魔術師」「藍の魔術師」と呼ばれているのが粋です。邪悪な魔術を使いこなすふたりは、ただ領主の命令に従っているだけではなくそれぞれ腹に一物あるようで、得体の知れなさを感じさせます。
領主も終盤で、予想していなかった方向の邪悪さをみせてきます。ここで、日本に初めて紹介されたハーディング作品『嘘の木』から印象づけられているテーマ性も浮かび上がってきます。
ページ数的なボリューム感ではいつものハーディング作品と比べると物足りないようにもみえますが、心配はいりません。濃密なファンタジーの蜜を存分に味わわせてもらえます。