『みおちゃんも猫好きだよね?』(神戸遥真)

小学六年生の朱梨のクラスに、とってもかわいいみおちゃんが転校してきました。この学校は五,六年でクラス替えがなく人間関係がすでに固まっていたので、朱梨はひそかに大変だなと思っていました。でもそれは杞憂で、みおちゃんはクラスの最大派閥の志倉さんのグループに引き入れられ、スポーツが得意な子が多い二番手グループともなかよくやっていました。朱梨は地味子自認なのでクラスの中心グループとはあまり関わりあいになりたくなかったのですが、みおちゃんと家が近いからという理由でお節介にも志倉さんが猫のいる雑貨店に一緒に遊びに行くよう誘ってきました。そこでみおちゃんの具合が悪くなり送っていったところ、みんなには秘密にしていたみおちゃんの猫アレルギーを知ってしまいます。ここから朱梨の受難が始まります。
朱梨はみおちゃんにショッピングモールのフードコートに呼び出され、口止め料としてEバーガーのポテトを無理矢理食べさせられます。弱みを握っているのは地味子の方なのに威圧されるのかわいそうだし、Eバーガーって脅迫の道具に使っていいの?
外ヅラのいい人気者が自分にだけ素の顔をみせてくれるというのは少女漫画などではおいしい立ち位置にもなりそうですが、朱梨が持つのは恐怖心だけです。胸キュンを研究している『ぼくらの胸キュンの作り方』のコンビであれば、これはリアルでやるとただのモラだからと、こういう設定は却下しそうです。
アレルギーをはじめとしたみえにくい困難とその配慮について、ピクトグラムやヘルプマークなどそれを改善するための工夫について、朱梨はみおちゃんとの衝突をきっかけにいろいろなことを学んでいきます。注入される知識の量が多いので、道徳教材を読まされている感は否めません。しかしそこがうまく学級内の権力闘争につながっていくので、ホラーコメディのように楽しく読み進めていくことができます。
みおちゃんはなにかと威圧してくるし、志倉さんは本人の要望も聞かずみおちゃんの誕生日パーティーを猫のいる雑貨店で開こうとします。「志倉さんは本当にすごい」という決してほめていない「すごい」に朱梨の感情がこめられていて苦労が忍ばれます。みおちゃんと志倉さんに振り回されて、いつの間にかクラスでの朱梨の立ち位置は断崖になってしまいます。
ところで、わたしがこのタイトルを初めてみたときに思い浮かんだストーリーは、愛玩動物としての「好き」と食材としての「好き」を混同して100%善意で「みおちゃんも猫好きだよね?」……というろくでもないものでした。コミュニケーションの齟齬に基づくホラーだと考えると、この予想もあながち間違っていなかったといえるかもしれません。