『ミシュカ』(エドワルト・ファン・デ・フェンデル&アヌッシュ・エルマン)

アフガニスタンからオランダに逃れてきた難民の一家の物語。オランダに来てからも永住の許可はなかなか下りず、5年間も難民申請者センターに住んでいました。自分たちの家を手に入れて初めての夜、9歳のロヤは「家にはふつう、動物がいるもんだよ。わたしはそう思うな」と主張しました。そしてロヤたちは、ペットショップで一目惚れしたドワーフラビットのミシュカを家に迎え入れます。
過去のつらい経験はロヤからミシュカに語られますが、家を手に入れてからは穏やかな暮らしを実現できています。幸福の象徴がミシュカで、ミシュカのうんちやおしっこすら愛おしい日常の彩りです。こういう作品が受け入れられるということは、建前であっても困難を抱える人は幸福に生きるべきであるという価値観が社会に共有されていることのあらわれでしょう。弱者しばきや排外主義がますます加速する国に生きる身には、うらやましく思えます。
困難を抱える人と多数派のあいだにどのようにして共感の回路を開くのか、そこが難しい問題です。作中では、ミシュカの家出事件がその糸口になります。ミシュカが家出した理由を、ロヤは自分なりに解釈します。もちろんミシュカの真意ははかりようがありませんから、それはロヤの自己完結です。しかし、その共感の回路は読者に開かれています。