「少女探偵夜明」三部作(北村想)

 劇作家の北村想と漫画家のとり・みきによる異色の作品です。
 背後の怪人におびえる少女を描いたいかにもこけおどしという感じの表紙や、読者に語りかける文体が、だいぶ昔の少年少女向け探偵小説をおもわせます。
 内容も、東京の街に不気味な予言者がたくさん現れ、少女の誘拐事件を予言するというおどろおどろしい始まり方をします。しかも、誘拐された少女達は発見されたのち、まるで浦島太郎のように急速に老化してしまいます。ただのミステリではありません。そのうち催眠術とか生命物理学とかウラシマ効果とか怪しげな単語が飛び出してきます。でも、SFでもないのです。ジャンルがなにかと問われれば、探偵小説と答えるしかないたぐいのヤツなのです。あやしげな理系うんちくが出てきたり、いきなり作者が登場して登場人物と会話したり、自覚的にB級臭をただよわせていて、非常によいエンターテインメントになっています。
 事件に立ち向かうのは14歳の少女探偵小川夜明。科学者の両親を事故でなくし、祖父の探偵事務所の手伝いをして暮らしています。ださい眼鏡がトレードマークで、動植物と会話ができるという特殊能力を持っています。しかもラストで実は改造人間だったことが明かされるという、とんでもなく濃いキャラクタ−です。
少女探偵夜明 魔少年〔χ〕 (ミステリー・BOOKS)

少女探偵夜明 魔少年〔χ〕 (ミステリー・BOOKS)

 前作から2年の年月が流れ、夜明は16歳になっていますが、例の光細胞とやらのおかげで彼女は年をとることができなくなっており、外見は14歳の時のままです。なんてうらやましいんだ。
 今回夜明はいきなり警視庁長官に呼び出され、国家の存亡に関わる重大な依頼を受けます。日本政府が管理している巨大な地下金庫から、たった一つの金塊が消失してしまったというのです。
 えー、まじめに謎解きをしようとしてはいけません。虚数世界とか五次元空間とかが出てきますからどう転んでもまともなミステリにはなりません。しかも敵は悪の秘密結社GG団。「悪の秘密結社」という単語がなんのてらいもなく出てくるところがこの作品世界のすばらしいところです。
 意外なことにラストは泣かせてくれます。夜明と魔少年カイ、重い宿命を持つもの同士で通じ合うものがあったのでしょう。スカートの件はちょっとどうかと思いますが。
少女探偵夜明 薔薇姫 (ミステリー・BOOKS)

少女探偵夜明 薔薇姫 (ミステリー・BOOKS)

 完結編。名探偵といえば怪盗が付き物です。今回は夜明の最大のライバルとして、薔薇姫なる怪盗が登場します。登山家のあいだで伝説になっている幻の塔「アテナの塔」。その薔薇に覆われた謎めいた塔が薔薇姫の根城です。予告通りにまんまと警護していた宝石を奪われてしまった夜明は、「アテナの塔」の見つけだし薔薇姫を捉えることができるのか……。
 お約束のバカSF設定では、いつのころからかミステリファンの必須教養となったシュレディンガーの猫が登場します。ドッペルゲンガーが登場したり登場人物が犯人の都合のいいように動いたりする異常事態に、強引ながら一応の説明は付けてくれます。まったく気持ちいい反則っぷりです。
 ありえない出会いを実現させることによって生じるSFのリリシズム。そしてミステリのお約束(最後に怪盗が毒をあおって自決するといった)のリリシズム。SFとミステリというふたつのジャンル小説からいいとこどりして実に感動させる結末を導いています。一流のB級エンターテインメントだといえると思います。