「ローン・レンジャーの思い出」(森忠明)

ローン・レンジャーの思い出 (ぶんけい童話館)

ローン・レンジャーの思い出 (ぶんけい童話館)

 例のごとく森少年を主人公とした自伝のような短編集です。友達との別れをテーマにした短編が二作収められています。ハードボイルド風の語りで、どうあっても孤独がつきまとってしまう人生の悲哀をしみじみと描き出しています。
 第一話の「失調と不良」では、やくざものの父親と一緒に失踪した少年大野恵志の思い出が語られています。森少年は町でのけ者にされる親子を絶妙の距離感で見つめます。

 殺し屋たちが追いかけてきそうもない安全な場所は、立川中央公民館の図書室だぜ、と息子に教わったので、おじさんは毎日どこかの町の図書館へかくれに行くらしい。
 心細いかもしれないふたりのレンジャー、死ぬなよ、といのった。(p45)

 美人のお姉さんが貸し出し係をしている図書館で、森少年が卑猥に見えなくもないタイトルの本を借りようかどうか逡巡する冒頭の場面も印象に残ります。
 第二話の「ほこり高き男」には、脳腫瘍で幼くして亡くなった森少年の姉を幼稚園時代に振った少年広井杉男が登場します。彼ももまた転校して森少年の元から去っていきます。森少年は広井が自分と同じ趣味を持っていたので、ひそかに親近感を抱いていました。その趣味とはのぞきです。
 子供の性欲をあけっぴろげに描くところが森作品の大きな特徴のひとつです。この作品でもずいぶん露骨な描写がなされています。森少年はお手伝いのお姉さんが寝ている部屋をのぞくのががたいそう好きで、そのときの気持ちをこのように語っています。

 あの気分は、ぜったいすけべなのじゃない。青森という遠い所から東京のこんな所までお手伝いにやってきている、おとなしくてやさしい、きれいなおねえさんと、同じ家で、ちょっとはなれて眠るおれは、天国にいるようないい感じになった。その気持ちはすけべとは関係なく、悪い心のありさまじゃないが、のぞかれた者がいやがることが多いので悪いことになるんだろう。(p79〜p80)

 これはさすがに犯罪の域に達していると思うのですが、いかがでしょうか。