「バラーダ」(住谷春也/訳)

バラーダ―ルーマニア口承物語詩

バラーダ―ルーマニア口承物語詩

 このインパクトの強い表紙をみせられたら読まないわけにはいかないでしょう。腕に板で作った翼を付けて建物から飛び降りる男は一体何者なのか、気になって仕方ないではありませんか。
 ルーマニアに伝わる「口承叙事詩」が三編収められています。内容も表紙のインパクトに負けないすごみがあり、ルーマニア人の豊穣な想像力に圧倒されてしまいました。
 最初に収められている「ミオリッツァ」という話は、羊飼いが自分の殺害計画を羊に教えられるという衝撃的な場面から始まります。この後の展開を予想することはまず不可能でしょう。羊飼いは自分の身を守ろうとせず運命を受け入れ、その後えんえんと死の世界への憧憬を語り、そのまま物語は終わってしまうのです。あまりの予想外の展開にあきれて開いた口がふさがらないのですが、羊飼いの死の世界に対する情熱は美しく、うっかり彼の態度に納得してしまいそうになりました。
 他の二編は、僧院を建てるために自分の妻を人柱にした男の物語「棟梁マノーレ」と、近親婚を迫る兄から逃走する妹の物語「太陽と月」です。前者は哀切さで、後者は物語のダイナミックさで読ませてくれました。