『アイドル・ことまり! 3  夢をつかもう!』(令丈ヒロ子)

「アイドル・ことまり!」シリーズが完結。CMのキャラクターにスカウトされたことりの前に立ちふさがったのは、鞠香でした。親友同士がひとつの役をめぐって争うライバルになるという、熱い展開になりました。アイドルを目指すふたりの運命にいよいよ決着がつきます。
ことりは鞠香のかわいいところを誰よりも知り尽くしていて、鞠香も同様にことりのかわいいところを知り尽くしています。そのため、お互いのかわいさをトレースすることができるようになります。この展開は、現時点での令丈百合児童文学最高傑作『メニメニハート』を思い出させます。『メニメニハート』のマジサギコンビは、お互いが好きすぎるあまり心身が入れ替わってしまいます。

「鞠香はことりと同じじゃないんだよ。」(p149)

しかし、どんなに相手のことが好きでも、同化することはできません。ことりは激しく鞠香への思いを吐露します。

「二人でそっくりのドレスを着ておどるのは、本物のふたごになったみたいですごく楽しかったのに、」(p149)

初めてできた、ずっと仲良く、いっしょにいたいと思った相手、それが鞠香なのに。(p152)

他者はどこまでいっても他者であり、だからこそ愛しくなって求めてしまいます。その苦さと甘さをいい具合に描いているところに、令丈ヒロ子の恋愛小説の味わいはあります。
神も運命も拒絶して自らの生きる道を選び取ったふたりの未来に、幸福が訪れますように。