『繕い屋の娘カヤ』(曄田依子)

繕い屋の娘カヤ

繕い屋の娘カヤ

著者の曄田依子は、主に美術の分野で活躍している人のようです。児童文学は、イラスト含めてこれがデビュー作となります。はてな村民としては、ハックル先生(『もしドラ』著者の岩崎夏海)が岩崎書店社長として初めて編集を手かげた作品としても、注目する必要があります。
物語が始まってすぐに、舞台について「カヤの住んでいる国について少し話しましょう。アジアの端にある島国、日本国」と紹介されます。つまり、この「日本国」はわれわれの知っている日本とは似て非なる世界であると宣言されるわけです。この「日本国」は、たくさんの港が開かれ、コーヒーや紅茶やバイクや自動車など海外からたくさんの文化を取り入れている最中のようです。同時に鉄の武器が輸入され、徒党を組んだ外国人が各地で紛争を起こす治安の悪い国にもなっているようです。どの程度の文明レベルなのか判然とせず、読者はこの「日本国」とどう距離をとったらいいのかとまどわされます。ここでもう、作者の術中にはまったようなものなのでしょう。近現代のようでありながら神代とも結びついている捉えようのない世界が展開されます。
主人公のカヤは紛争の影響で孤児になっており、親のあとを継いで繕い屋の仕事をして生活していました。ある日カヤは、神社の狛犬のミスマルが台座から転落する現場を目撃してしまいます。カヤはなりゆきでミスマルと一緒に神の領域である森に踏みこんでいくことになります。
神の領域で試練を受け、神から奪われたり神に与えたりするという展開は基本に忠実。定型を感動的に料理する力量もあります。イラスト・デザイン・配色も奇妙な世界に彩りを添えています。まだ正体をつかみづらいですが、独特の魅力を持っていることは確かです。