『こっちをみてる。』(となりそうしち/作 伊藤潤二/絵)

怪談えほんの新刊。怪談えほんコンテスト大賞受賞作に伊藤潤二がイラストをつけたものです。伊藤潤二といえば、言わずと知れた日本を代表するホラー漫画家のひとり。その名を聞いただけで富江やうずまきなどのトラウマが思い出され震えあがってしまいます。
怪談えほんコンテストの開催が2018年なので刊行までだいぶ時間がかかってしまいましたが、これは伊藤潤二が多忙だったためだそうです。伊藤潤二ほどの人であれば、どれだけ待たされても納得できます。
主人公の「ぼく」の目は、あらゆるところに「かお」の存在を見出してしまいます。机の傷や校庭の木など。学校の場面では、教室の窓から見える空に浮かぶ雲も「かお」のようになっています。空の「かお」はやめて、首吊り気球来ないで! さて、この悩みをお母さんに相談したところ、「ぼく」が気づいていることを「かお」たちに気づかれてしまったのか、はじめはうっすらと見えるだけだった「かお」がはっきりとその姿を現し、「ぼく」を、「ぼく」だけを凝視してくるようになります。
インタビューで伊藤潤二は、「となりさんはもしかしたら対人恐怖症のようなものが少しあるのかな」と指摘し、自身も若いころ視線恐怖症があったと明かしています。シンプルなテキストと美麗なイラストによって描かれる視線の恐怖は、狂気を誘発するレベルの迫力を持っています。顔の増殖がエスカレートする中盤の展開は、もはや怖くて笑うことしかできなくなるくらいです。
「かお」に追い詰められて「ぼく」が転倒してしまったことから、物語はクライマックスに向かいます。読者の期待どおりにびっくりさせてくれるオーソドックスなオチのよさは、『いるの いないの』と同系統です。
『いるの いないの』には、無数に出てくる猫の数を数えるというおまけの楽しみ方がありました。『こっちをみてる。』も同様に、「かお」を数えるという遊びができそうです。いや、それをやると本当に頭がおかしくなりそうだから、やめておいたほうがいいかもしれません。