たとえ建前であったとしても、児童文学は差別から最も遠い場所にあるべきであるということは、強く主張しておく必要があります。差別発言で炎上したばかりの作家が初めて児童向け作品を手掛けるということで、懸念を持っていた人も多いのではないでしょうか。少なくとも1巻の時点では著者の差別的な思想は作中には顕著にはみられなかったということだけ、まず報告しておきます*1。
子どもが初めて触れるミステリをコンセプトにした作品なので、キャラ造形もオーソドックスでストーリーも一本道。わかりやすさという点では目的を果たしているようです。
メインの事件は、学校のプールに何十匹もの金魚が放たれてプールの授業が中止になってしまったというものです。冒頭の、夜のプールで塩素ボールを投げこもうとした先生が異変に気づく場面は、夜の高揚感もあって幻想性があり引きこまれます。やはりミステリには謎の魅力が肝要です。ただ、先生は夜の十時すぎまで五時間以上ものサービス残業を強いられていたと考えると、ブラック労働の過酷さにおののいてしまいます。過労死する前に逃げて!
発端の謎は美しいです。しかし、犯人が目的を達するためにはほかにいくらでも簡単な方法があるはずなのに、あえて金銭的負担も大きい装飾的な犯行をした必然性が弱いように思われます。
悪くはない作品ですが、現代の児童向けミステリの水準を知る読者が読むと、著者の知名度の割にはあまり期待を満たしてくれなかった作品だったと受けとめられるかもしれません。