『チーム紫式部!』

お江戸でゾンビパニックが起こる『お江戸怪談時間旅行』など、静山社から出ている楠木誠一郎の時代ものはフリーダムな怪作が目立ちます。これもなかなかになかなかな作品でした。
憧れの藤原道長にスカウトされて彰子に仕えることになった紫式部は、道長を主役にした妄想ストーリーを書きます。この作品の特色は、紫式部が子連れ文士として宮中に入ることです。しっかり者の娘の賢子がひきこもり体質の母を叱咤して仕事をさせるという関係性の転倒がギャグとして展開されます。紫式部のライバル役も子連れで登場するので、ケンカの様子も立体的になって盛り上がります。紫式部の境遇を、バリキャリのシングルマザーとして現代風に読み替えているのがおもしろいところです。
読者に語りかけるような紫式部の語りも愉快です。油を使わず月明かりで夜を過ごすのはSDGsだとのたまったり、官職の序列を『鎌倉殿の13人』を引き合いに出して説明したり、現代の読者にわかりやすく親しみやすい語りに引きこまれます。「通い婚でも育休とりなさいよ」って説教なんなの? 「全集中」とか現代の言葉を出しアナクロニズムを犯しているのは、もちろん文学的な手法です。代表的な例としては、澁澤龍彦の『高丘親王航海記』が有名ですね。けっして「この本書いた人バカなの?」なんて思ってはいけません。
紫式部は職場の人間関係に悩まされます。そういうときに頼りになる先輩がいてくれたらありがたいものです。赤染衛門パイセンと清少納言パイセンが助けとなり、紫式部は自分の立ち位置を確立します。そして、オタク女子たちが結束してしまえば、もう無敵です。「チーム紫式部」なる謎集団が結成されてからの物語の勢いには、呆然とするしかありませんでした。