『がっこうのてんこちゃん』(ほそかわてんてん)

初めてのことが苦手で不安に取り憑かれやすいてんこちゃんを主人公とする絵童話。てんこちゃんはテンの子どもたちが通うコトブキしょうがっこうに入学します。クラスにはてんこちゃんをふくめて10匹のテンの子が所属しています。担任のシロ先生は自己紹介をするように促しますが、さっそくてんこちゃんは不安に襲われます。
てんこちゃんの不安が医療的な支援が必要なレベルのものなのかどうかは判然としません。が、脳の中にいる「どうしようオバケ」が脳から出てきて首をしめつけるさまは、サンショウウオみたいなオバケの見た目がゆるいだけに逃れがたい怖さを感じさせます。
救いになるのは、テンの学校の多様性です。数字と電車が好きなてんいちくんなど個性的な子が多く、それぞれの違いを認めあう優しい世界が描かれています。てんこちゃんが自己紹介が怖くてカーテンにくるまって隠れてしまうと、他の子たちもカーテンにくるまってそれぞれの感想を言います。このように、てんこちゃんが排除されない世界が実現されます。
10匹のテンの子が自己紹介したりお弁当を見せあったり、あるいは花瓶が落ちた事件の犯人は自分ではないと弁解したり、それぞれの発言や行動をみせる場面にこのシリーズの特色と楽しさが詰まっています。ただし、多様性は決定的な孤独を現出させることもあります。2巻でてんこちゃんは、なんとなく学校に行きたくなくなって欠席します。その後ほかの子たちも学校に行きたくない気持ちになることがあることを知りますが、てんこちゃんと同じ「なんとなく」という理由の子はいません。でも、てんこちゃんが自分の気持ちを伝えると「それも、わかる気がする」と受け入れられますし、両親にはその気持ちがそのまま理解されます。
「みんなちがって、みんないい」というお題目を唱えるだけなら簡単ですが、この作品はその理念を具体的なシチュエーションとして実現している良作であるといえそうです。