『インサイド この壁の向こうへ』(佐藤まどか)

上流・中流下流の階級の人々が完全に分断された国の物語。本来深い関わりを持つことのなかったはずの異なる階級の6人の子どもが集められ、なんらかの教育プログラムを施されます。どうやらそれには、上級階級がゲーティッドコミュニティをつくる計画や、上流階級の少子化対策としてさまざまな階級の子どもを養子候補にしようとするたくらみが関わっているようですが、なかなか全貌はわかりません。
子どもをカルト合宿に放りこんで洗脳する『世界とキレル』に顕著に表れているとおり、佐藤まどかは子どもを特殊な環境に入れて実験・観察するのが大好きです。この作品では、ある意味で『世界とキレル』の答えあわせがなされているのが興味深いです。『インサイド』の登場人物が解説しているように、『世界とキレル』で主人公を1回脱走させたのも自分の意思で戻ることを選択させる(選択したように誤認させる)ことが目的であったようです。
インサイド』の終盤では、異なる階級の人々が理性的に話しあって問題解決に取り組むユートピアが実現されているようにみえます。しかしそれは、みんなが最低限の衣食住を保証されている状況によるものです。これを裏返すと、環境に恵まれない者には理性がないとしているようにも受け取れます。こうみると、下層民の内面を全然描かなかったデビュー作から佐藤まどかの姿勢は一貫しています。
子どもたちを閉じこめて教育を施したのは作中人物の意思によるものですが、その外側には当然作者の意思があります。作中の子どもは、二重の教育欲・支配欲にさらされています。