『Mガールズ』(濱野京子)

Mガールズ

Mガールズ

COVID-19は終息したがARSウィルスという新たな疫病が猛威を振るっている近未来を舞台にしたディストピアSF(だということにしたい)。分断された世界の子どもたちがストリートダンスという趣味を通して世界を広げようとする物語です。
ということで、本格的なアフターコロナの児童文学を発表した一番乗りの作家は、濱野京子だということになりました。濱野京子は現役の社会派児童文学作家のなかでは間違いなく五指に入る作家ですから、妥当な結果といえましょう。
『すべては平和のために』(2016.新日本出版社)のようなディストピアものを出している濱野京子なので、このテーマはお手のものです。Mガールズ世界では富裕層はエリアAに住み貧困層はエリアB・エリアCに住むといったように、居住地まで分かれてしまうくらい格差が進みもはや身分社会になっています。上級国民ならぬ上級市民なる言葉も人口に膾炙してしまっています。エリアCの人口が増えているのにエリアAは少なく、それなのにエリアAの学校だけ学力が突出しているというのがエグいです。エリアAの大人は自宅勤務できますがエリアBやCはそれが許されない職業ばかりで、主人公のミリの母親は内勤ができない看護師をしていました。もはや世界は戦場のようになっていて、戦場で殺される層と安全地帯で命令する層が完全に分断されているのです。
ただし、エリアAに住んでいるからといって幸福とは限りません。ダンスチームのメンバーになるエリアAのマドカの父親は、外ヅラは人権派弁護士で家庭内ではDVクズ男でした。富裕層であっても家族・家庭の問題から逃れられないというのは、昨年の『with you』(2020・くもん出版)でも取り上げられている問題です。
そんな分断を乗り越えて友愛や恋愛によって人はつながれるのかという問いも、濱野京子が繰り返し語ってきたテーマです。
アフターコロナという最新のトレンドを扱っているようで、実はこの作品は、いままでの濱野作品の成果の変奏であり進化形でもあるのです。このことは、社会を見つめる濱野京子の視点の先見性を証明しています。