『ふたごチャレンジ!2  マスクの中に、かくしたキモチ?』(七都にい)

現代版とりかへばや物語の最前線、「ふたごチャレンジ」シリーズの第2弾。ふたごのあかねとかえでは転校先の学校で入れ替わって過ごすことにして、その嘘を周囲に打ち明けるまでが第1巻までのお話。第2巻の冒頭は、自分らしさを解放したふたりがファンションショーをするという実に楽しげな場面を提供してくれます。でも、あかねもかえでもこの後それぞれ曇ることになってしまうのですが……。
第2巻は、学芸会の演劇を中心に物語が進行します。ふたごはふたりでアリス役をするように推薦されますが、なかにはそのことにわだかまりを持つ同級生もいます。特にかえでは直接的なヘイトを向けられます。なかでもかえでにつらくあたったのは、いつも黒マスクをしている吉良辰紅という男子でした。不穏さを抱えたまま、学芸会の準備は進行していきます。
1巻のラスボスだった校長のようなわかりやすい弾圧者を倒せばハッピーエンドというような安易さを、このシリーズは許してくれません。澱のように沈殿した悪意との対峙という難しい課題に、作品は向きあっていきます。
あかねの相談相手になる大人びた少年太陽は、誰かをスケープゴートにすることで集団を団結させる構図は、差別する側にも反差別の側にも当てはまると説きます。ここで、加害と被害は簡単に反転するという問題提起がなされます。また、差別問題を別にすれば、目立っていて特別扱いされる子に反感を持つ気持ちは、頭ごなしに否定できるものでもありません*1。こっちが絶対的な正義であっちが絶対的な悪であるという決めつけは不可能であるという複雑さを受けいれながら、できるだけ人を傷つけることのない解決の道を、作品は探っていきます。
様々な方面に繊細な配慮をしながら、しっかりと娯楽作品として読者をもてなしていて、これこそ新世代のエンタメ児童文学という感じがします。ラストの次回への引きもバッチリで、ますますシリーズの今後が楽しみになりました。

*1:このあたりの問題は、同じつばさ文庫の「四つ子ぐらし」シリーズでも触れられている。