『リックとあいまいな境界線』(アレックス・ジーノ)

『ジョージと秘密のメリッサ』の姉妹編。中学校に上がったばかりのリックは、差別的なものも含む性的な冗談ばかり言ってくる親友のジェフとの関係に悩んでいました。そろそろ好きな異性、もしくは同性ができるかもしれないということに親も言及してきますが、リックはそれにも違和感を持っています。リックはジェフに隠れてLGBT+の権利について話しあう〈レインボーズ〉という学校の課外クラブと関わりますが、ジェフは〈レインボーズ〉へのいやがらせをエスカレートさせていきます。
作品はセクマイの問題について権威的で絶対的な答えを出そうとせず、よりみんなが生きやすい世界に変えていくための対話の営みを重視しています。LGBT+という呼称とQUILTBAGという呼称のどちらかよりよいかという問題に結論を出しません。英語担当の顧問の先生ははじめは単数の「They」の用法に嫌悪感を示しますが、やがて考えを改めます。
ただしある局面では、変わる可能性に言及することが暴力になることもあります。リックは自分がアセクシュアルであるのではないかと思うようになります。しかしそれは、同性愛者やトランス以上に周囲からの理解を得ることが難しく、まったくの善意からそのうち恋愛できるように変わると言われてしまいます。可能性の話ならなんとでも言うことはできます。でも、それを言ってしまうことはいまそこにいるその人の存在を否定することになるので、慎重になるべきです。
〈レインボーズ〉のほかに、祖父との関わりもリックの世界を開いてくれます。リックは父親から祖父と二時間半もふたりきりで過ごすように命じられて気が重くなります。しかし会ってみると祖父はオタクで話が盛り上がり、リックは祖父と過ごす時間を楽しみにするようになります。『ジョージと秘密のメリッサ』のラストは祝福に満ちたものでした。『リックとあいまいな境界線』も、年齢の離れたふたりが影響を与えあって祝祭的空間を実現するラストが美しかったです。