『シニカル探偵 安土真 3 写生大会はトラブルいっぱい!』(齊藤飛鳥)

〈放課後カイケツ団〉という仲間を得た渡辺さくらは、「アウトドア派のひきこもり」から「くせ者鍵師」にランクアップしました。疫病神体質は変わらないものの、新たな仲間の性格最悪の探偵安土真・意識が原始時代のリアル戦闘民族ウータン・ゴシップクイーンの伏見久美穂はみんなメンタル超人なので、何があっても動じません。今回は、丸ごと放課後みたいな写生大会の日に続々と降りかかる難事件を解決していきます。どうやら安土真は本編中で語られない事件もいくつか解決しているらしく、『午後のチャイムが鳴るまでは』のやつに近い推理能力を持っているのではないかと驚嘆させられます。
さくらの自虐も交えたユーモラスな語りは、今巻でも絶好調です。まず自分の疫病神体質を、「立てば爆発、座れば凶弾、歩く先には事故の山」というダジャレで紹介します。でもこれは、暗に自分の美貌を自慢しているようにも受け取れます。こんなダジャレから始まって、ルッキズムという現代の児童文学の重要テーマに踏みこんでいくところに、この作品のくせ者性があらわれています。
探偵役の安土真は性格最悪で口が悪いので、道徳的なお説教をするわけではありません。

女子なんて、大人になればメイクの仕方を覚えて、いくらでもきれいになれるんだ。(中略)なにしろ男ってのは、きれいな女の人よりもきれいなメイクをしている女の人のほうが好きなんだからな。

え、その理屈だとルッキズムを煽っている美容業界に荷担することになるのでは? そこに意識が原始時代のウータンがさらにアホなことを言って、問題がずらされます。これは正攻法からの解決にはなりませんが、ある程度犯人の心を救ってはいます。
ミステリとしてもくせ者で、「冷八家空流(冷ややかクール)」とかいう珍名の人がたくさん登場するのが当たり前の世界だと思わせておいてそこを事件発生のきっかけとしている手の込み方がすごいです。