「認めあうことを、あきらめない」
子どものやわらかな心を狙って小学校を渡り歩く自称養護教諭2年目25歳の奇野妖乃先生を主人公とするシリーズの第2期最終巻。フィナーレを飾るにふさわしい強敵が登場します。今回妖乃先生が赴任したのは、強力な感染症が流行していた時期の揺り戻しで協調性や共感力の育成を重視している地獄のような学校でした。その学校が、争いをなくすために人間をみんな同じにしてしまおうと企む古代生物ネバネバに狙われます。ネバネバは人間に寄生し、「みんないっしょ」の行動をすると幸せホルモンを放出します。児童はどんどんネバネバに感染していきます。
初期から集団になじめない子に寄り添う作風だったシリーズらしいラスボスの設定です。第1話の主人公は、趣味が個性的なため多数決でいつも負けてしまうことに不満を持っている山下碧。商店街の店主にインタビューする総合学習でひとりだけハ虫類ショップに行きたいと主張し、案の定却下されます。そんな碧がネバネバの第一犠牲者になって、一輪車の集団演技に励んでしまう堕落した姿をみせます。第2話の主人公の山下和音は、碧のいとこで自己主張できる碧に憧れていました。碧が変化してしまってとまどう和音は妖乃先生に相談し、ネバネバ侵入防止のビニール手ぶくろを与えられます。しかし、碧から「和音に最初のタッチをしてあげる。そしたら、あたしと和音はいっしょになれるんだよ」と誘惑され、ネバネバの手に落ちてしまいます。
この作品は吸血鬼やゾンビもののホラーの構造を採用していて、同化してしまうことの怖さを存分に味わわせてもらえます。一方、この状況に危機感を持った先生も現れます。その先生のクラスでは「自分らしさ」を求められ、そのことに息苦しさを感じる子どもも登場します。「みんな同じ」も「自分らしさ」もどちらも押しつけは子どもの負担になるということに目配りしているあたり、バランスがとれています。
吸血鬼は感染症のメタファーでもあります。ネバネバは握手で感染するので妖乃先生はさまざまなタイプの防護手ぶくろを開発しますが、ネバネバ感染者は言葉巧みに手ぶくろを外させます。現在の日本は文科省も主導してマスクを外させ、コロナ・インフルエンザその他の感染症を蔓延させている意味不明な事態になっていますが、そんな状況への風刺にもなっています。集団の和を乱すくらいなら健康も生命もいくらでも犠牲にすべきだというのが、この国の美徳です。
しかし、どんな絶望的な状況でも、妖乃先生は信頼できます。なにしろ彼女は子どものやわらかい心を狙う悪い妖怪。「みんないっしょ」になってしまってはコレクションの楽しみがなくなってしまうので、ネバネバの好きにさせるわけにはいきません。私利私欲のために動いているダークヒーローだからこそ、こういうときには頼りになります。
ほとんどの児童がネバネバの手に落ちた三学期、親友の杏をネバネバに奪われてしまった戸田一紗が世界の命運を分ける戦いに臨みます。一紗を守るのは、植物たち。そして、シリーズの読者なら知っているとおり、最強の植物は百合です。一紗は一対一で杏を通してネバネバを説得する手はずでしたが、アクシデントでもう一組の百合カップルほか数名の児童が乱入してしまいます。一対一の閉じられた関係で決着をつけずに、人間関係が開かれたところでラストバトルが展開できたのが、怪我の功名でした。
第2期はきれいにフィナーレを迎えました。もちろん第3期もあるものと期待しています。