語り手は、居場所のない子どもたちが集団生活を営むノア・ハウスで暮らす少年ユーキ。ノア・ハウスに謎めいた少年イリヤがやってきたことから、ユーキの日常は揺らぎます。イリヤはなかなかノア・ハウスの子どもたちと打ち解けませんでしたが、村のならず者を超人的な身体能力でのしたことから、一気にみんなから慕われるようになりました。しかし、ユーキだけはイリヤに言い知れぬ恐怖の念も抱いていました。
物語は寄宿学校を舞台とした怪奇小説といった趣でスタートします。そこに村長選挙を巡る村人たちの権力闘争や、森のなかに潜んでいるカルトめいた集団、村人を扇動する流れ者などが絡んできて、一大エンターテインメントが繰り広げられます。
娯楽的なサービスもたっぷり盛りこんだうえで、三田村がオオカミというモチーフに仮託してきた、疎外・孤独・野性・ここではない世界への憧憬といったテーマが繰り出されます。中村宏と組んだ三田村初期の不朽のトラウマ短編集『オオカミがきた』にあった、失踪するオオカミ、海に*3溢れるオオカミという忘れがたいイメージも繰り返されます。まさに、三田村信行の集大成というべき作品です。
*1:https://yamada5.hatenablog.com/entry/20120428/p1
*2:https://www.asahi.com/asagakuplus/article/asasho/15568242
*3:最終章のタイトルは「海へ!」。ここで思い出されるのは天沢退二郎の『オレンジ党、海へ』だが、オレンジ党シリーズでもオオカミ(大口真神)が重要なモチーフだった。闇のファンタジー児童文学とオオカミの親和性については、検証する必要がある。
