『祈りからさらに遠い町』(日向理恵子)

チィメイは父親の仕事の都合で、派手な花柄の壁紙に家中が彩られている風変わりな家に引っ越します。そこから、奇妙なできごとが続きます。
父親は、メアリ石と呼ばれる人の眼球にそっくりな石を使って発電する発電所の技師でした。この設定から、日向理恵子作品で頻出するいつものモチーフかと思われましたが、今回はいままでのファンタジーとは異なるテイストの作品に仕上げられています。
いわくのある家に住む子どもがおかしくなっていくという、典型的な幽霊屋敷ホラーとして、物語は展開します。両親が花柄を覆い隠そうとペンキを塗るも無駄な努力に終わるエピソードなどは、かなり薄気味悪いです。さらに幽霊屋敷だけではなく〈お通りさま〉や〈99人〉と呼ばれる怪異も絡んできて、ホラーとしてのサービスが行き届いています。
作品世界には、過去の戦争の影が暗くのしかかっています。生者が死者を利用せず、生者が死者に飲みこまれないようにするにはどうすればよいのか。生者と死者のあるべき関係が問いかけられています。
また、この時代は表現規制も厳しくなっているようで、小説を書くのに免許が必要になっています。チィメイは非合法で小説を売っている店に出入りしています。店主からは、読み終わった小説は即座に燃やすよう頼まれています。

「悪いことが起こる前は、どうしてこう筆が乗るんだろう」
するすると線が生まれ、文字が連なってゆく。客のいない店内で、燐寸屋は新しい物語を書きはじめる。
(p196)

これも現代の時代の空気なのでしょうか。「祈りからさらに遠い」というタイトルが意味深長です。