楠木誠一郎が静山社から大河ドラマ便乗本を出すのも恒例になってきました。といっても周知の通り、楠木誠一郎は歴史考証の面でもエンタメ性の面でも実績十分の信頼できる作家ですから、便乗企画でも侮ることはできません。おととしの紫式部は予想外のSF、去年の蔦重はしっとりした青春ものに仕上げられていました。今回もまた異なる趣向で楽しませてくれます。
今回の主役は豊臣秀長。「チーム豊臣」の「じゃないほう」の人です。あまりにエネルギッシュな兄に生涯(さらに死後の反省会まで!)振り回される弟という立場にスポットを当て、グチだらけの物語が語られます。
『出てこい、写楽!』と同様に背景色を変えた解説パートには、作者を名乗る「クスノキ」が登場します。おもしろいのは、自身も「弟」であることを利用して作者が秀長に同情し自己主張してくるところです。ふたりの「弟」の共鳴により、「兄」という存在に対する愛憎が笑いと悲哀をもって表明されるのが、本作の特色です。
