「屋根裏部屋の秘密」(松谷みよ子)

屋根裏部屋の秘密 (偕成社文庫)

屋根裏部屋の秘密 (偕成社文庫)

 1988年の作品。直樹とゆう子の物語の4作目です。小児喘息のため山荘で療養している少女エリコが祖父から重要な遺言を遺されます。屋根裏部屋にあるダンボール箱の中になにか重大な秘密があるとのこと。はたして祖父にはどんな秘密があったのか?
 山荘で暮らす病弱お嬢さまという嘘くさい設定で、前半は少女小説調に進んでいきます。そのためじじちゃまの秘密が明かされる後半との落差がものすごいことになっています。やさしいじじちゃまが実は731部隊の関係者であったという衝撃の展開。松谷みよ子司修のコンビはおぞましいものをおぞましく表現するが本当にうまいです。真相が語られる場面で拳銃を登場させ、圧倒的な暴力の存在を予感させる。そして語られる731部隊の活動のおぞましさ。731部隊のしたことくらい充分知ってはいるのですが、それでもこの本を読んで吐き気を感じました。
 作中亡霊として登場した中国人の少女は「おねがい、わたしをもういちど燃やさないで。灰にして吹きとばさないで」と訴えます。歴史を隠蔽することで犠牲者は何度でも殺され続けます。それをふせぐには地道に語り伝えていくしかありません。「屋根裏部屋の秘密」は昨年偕成社文庫に落ち、直樹とゆう子の物語の第一作「ふたりのイーダ」も2006年7月に新装版が出ています。