『フードバンクどろぼうをつかまえろ!』(オンジャリ Q.ラウフ)

困窮家庭の子どもネルソンは、いつもおなかをすかせています。ネルソンが大好きなのは、学校の朝食クラブと、フードバンク。しかし、フードバンクの食料がなぜか減ってしまいます。どうやら泥棒がいるらしいと知ったネルソンは、仲間とともに泥棒を捕まえようと奮闘します。
この作品、子どもたちの勇気が悪い泥棒を倒した、めでたしめでたしで終わらせていいのでしょうか。わたしはこの作品に、不気味な不自然さを感じました。
それは、看護師としてフルタイムで働いているネルソンの母親が一家を食わせるだけの収入を得られないことに、誰も怒りも疑問も感じないということです。いや、働いていようがなかろうが、人が貧困で飢えるなどということはあってはならないはずです。この作品では、貧困は当然存在する自然現象であるかのようにあつかわれていて、それを生み出す構造的問題に目を向けることはありません。
この作品はあくまでフードバンクの啓発を目的としたものであって、対象年齢がそう高くないことも考えれば貧困の本質的問題を描くことまで求めるのは筋違いであるという擁護は、可能でしょう。しかしこの作品は、あまりにもそれが徹底しすぎています。
全国フードバンク推進協議会代表理事による解説でもそれは徹底されています。解説では日本の子どもの貧困率が約7人に1人であることには触れられていますが、ここでもそれは自明の自然現象であるかのように流されています。その状態でフードバンクの説明だけがなされるので、日本に貧困がある原因はフードバンク制度の普及が遅れているからで、その解決策はフードバンクの推進しかないかのように受けとられかねません。まるで、子どもの頭をつかんで強制的にフードバンクの方に目を向けさせ、貧困の根本的問題は目に入らないようにしているかのようです。
もちろん、著者にも解説者にも悪意はないのでしょう。しかし、この本を子どもに読ませることで格差を温存しておいたほうが都合がよいと考える人々に与する結果になりはしないかという懸念は拭えません。