「あほうな人間ばかりだ。」
「けちなあほうばかりだ。」
(あほうのいばる世は、いつ終わるんだ……。)
幕末の東北で起きた大規模な一揆に題材をとった歴史児童文学。小学生にはなじみの薄いであろう題材で350ページを超えるボリュームの、なかなか威圧感のある本です。
物語の冒頭は、牛方のベコ六が悪党の集団に襲われる場面。11頭のうしが円陣を組むようにして立ち向かうという活劇で、まず読者の心をつかみます。その場面に、武家奉公に嫌気が差し村に帰ってきた少年万吉が登場。この少年が主人公です。
乱れた世には、様々な怪人が跳梁します。弘化の大一揆の英雄弥五兵衛の右腕といわれた50代の猛者鬼蔵は、いまは囚人の身。労働で死亡した少年の弔いを強行したため、拷問を受けていました。彼の脱出が、反撃の希望の兆しとなります。
歴史ものには、予言者のようにふるまう神秘的な芸人もほしいところです。三味線を鳴らし語る女芸人の無一弁天は、こじきの集団を引き連れて行進します。
「人みな無一物。」
「いっさいをすて、乞食となれ。」
そして、初登場時の印象が鮮烈だったベコ六、そういう役割だったのか……。
一揆の場面は、高揚感にあふれています。民衆が立ち上がれば巨大な権力を打ち倒せるという理想を語ることも、児童文学には必要でしょう。ただし、時代が激しく動くのはここからです。理想だけではうまくいきそうにない複雑さも見据え、物語は幕を引きます。
昔の骨太な歴史児童文学は、読み応えがありますね。

