『ぼくが消えた日』(金重剛二)

1974年偕成社刊。SFなのか不条理ものなのか判然としない奇妙な作品です。
主人公の道雄が「少年の科学」という雑誌の反物質に関する記事を読む場面から、物語は始まります。道雄はじぶんとそっくりな〈反ぼく〉と出会ってしまい、なぜか公園のベンチに変身してしまいます。冒頭から全くわけがわかりません。道雄はベンチを燃やしてけむりになればここから脱出できると考え、近くにいた少年に放火するよう依頼します。この道雄の発想の飛躍と肝の据わり方も異様です。
けむりになった道雄は、雲を高額で売り買いする雲男爵なる怪人物に狙われます。かと思えば、唐突に巨大なカタツムリが登場。煙から氷になり水になった道雄はキンモクセイに吸われ、キンモクセイになります。ここで植物学博士のダブル先生なる怪人が現れ、キンモクセイから道雄を取り出す手術をすると言います。怪人の登場と怪奇現象が続いて大忙しで、読者は物語に振り落とされないようにしがみつくだけで精一杯になってしまいます。
状態変化を解説する理科読み物の意図もあろうかと思いますが、それにしては隙があります。むしろその飛躍しているところが子どもの発想にあっていて、児童文学としてはふさわしいのかもしれません。昔の児童文学は意味不明な突破力があるから、掘るのをやめられません。