野ネズミのつくる野菜のスープのおいしさを知ってしまったイタチは、こいつは食い殺すより生かしておいてスープを作らせた方が得だと思い、生活を共にします。
肉食動物と草食動物の友愛ものといえば、いくつか名作が思い出されます。このジャンルは食と死という極限の状況下での関わりが描かれることが多いので、涙腺破壊力はかなり高いです。そんなジャンルに、新たな傑作が生まれました。まずこの作品のおそろしいところは、プロローグの段階でイタチは野ネズミと死別しているらしいことが明かされているところです。そして、イタチが野ネズミと暮らした過去のエピソードと別れの後のエピソードが交互に語られます。しかも、ふたつのパートの文字色を替えるという手の込み方。低学年向けの動物童話でこんな鬼畜な構成がゆるされていいの?
野ネズミは承服できないことがあると自分より大きな生き物にも立ち向かわずにはいられない戦闘的な性格で、そんなのと一緒では命がいくらあっても足りないので家族とは離れていました。イタチへの好意はストレートに表明し、ひねくれ者イタチをたじろがせます。スープづくりを通してふたりのなかはどんどん深まっていったのに……。
食を通した輪廻のような宗教的発想、スープづくりの技能の継承による同化、死んだ者を取り戻すことはできませんが、イタチにはおぼろげな救いは与えられます。