- 作者: 小森香折,染谷みのる
- 出版社/メーカー: 偕成社
- 発売日: 2014/11/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ひとつ。菊を植えるべからず。
ふたつ。日光に行くべからず。
みっつ。家宝を売るべからず。
(波佐間家家訓より)
遠い親戚の遺産を思いがけず相続することになり、『南総里見八犬伝』の里見家にゆかりのある市川のお屋敷に引っ越すことになった花畑杏珠。しかし、家訓にある家宝がなんなのか、誰も知りません。杏樹は家宝をめぐる陰謀劇に巻き込まれ、親戚の友達で歴史オタクの石松陸とともに、家宝の謎を探ることになります。
物語は、対照的な性格の杏珠と陸が交互に語り手を務める形式で語られます。対照的なダブル主人公という形式はさほど珍しくありませんが、この杏珠と陸の奇人度は突き抜けています。
杏樹の方は、脳がお花畑だから「お花畑の天使(ange)」という名前を作者に与えられているという残念さ。母親の影響で興味がファッションに偏っており、転校初日に造花やぬいぐるみがごちゃごちゃついているナスみたいな色のランドセルで登場して、早くもドン引かれます。しかし、彼女は自分のマイペースな生き方を貫く強さを持っており、同時に個性を貫く他者を許容できる懐の深さを持っているところが魅力です。
陸は、知性派過ぎて男みたいな格好をしていているために同級生や上級生からは疎まれていますが、なぜか下級生からは慕われています。で、下級生を統率してなにをしているかというと、戦争ゲームをさせて人間の闘争本能を抑える実験をしているのです。
こんな二人ですから、まったく会話は噛み合いませんが、合わない二人が徐々に友情を深めていくのがバディものの王道。この作品も王道をしっかり進んでいます。
キャラクターの奇人度で楽しませてくれ、架空の歴史ミステリとしても優秀な、上質な娯楽読み物になっていました。