「絵本画家の日記2」(長新太)

絵本画家の日記〈2〉

絵本画家の日記〈2〉

 「絵本画家の日記」の続編。絵本ジャーナル「Pee Boo」の1992年10月号から1998年11月号に掲載されたものです。表紙は怪獣の口から顔を出したおじさんが、口から火を噴いているというもの。いや、口から吐いているのは血かもしれません。
 終盤では闘病体験も描かれており胸が一杯になりますが、やはり目を引くのは絵本に対する熱い思いです。

生真面目というのは困りものだ。良識派を自認しているから、正々堂々としている。児童書の選択なども、コンクリートで出来たようなものばかりえらぶ。たまには悪口も書きたくなるよ。「ナンセンスに感動がありますか?」なんて詰問する。ゴジャリマスヨーダ

 こんな愚問を投げかけられたら腹が立つのは当たり前です。

「いいものが売れなくて、わるいものが売れるんです。そうすると、わるいものがいいものになるんです。」と、ある人が言う。「売れるものが、いい本なんです。絵の質の高さなんて、どうでもいいんです。絵の質が低いほど売れるんです。そういう絵は、親しみがもてる、ということで評価されるんです。ここのところがわからなくてはダメですよ、チョーさん」

「質はともかく、売れるものをつくるのが、いい編集者ですよ。」と、ある編集者が言う。「質はともかく、売れるものを描くのが、いい絵本作家です」と、ある絵本作家が言う。「質なんかわかりません。売れるものを買うのが、わたしたちです。」と、ある母親が言う。

 こういう状況は絵本の世界に限ったものではないと思いますが、絵本に限ってはひとつ大きな問題があります。それは、本を選ぶのが子供達自身ではないということでです。くだらない絵本を読まされても、子供に自己責任を問うことは出来ません。責任を問われるのは媒介者である大人、損をするのは子供です。それだけにこの母親の発言には絶望させられてしまいます。

たとえ10部しか本が売れなくても、子どもたちを喜ばせてやろう。やがてその10人の子どもたちは成長して、りっぱな10人の編集者になり、よい絵本をつくるだろう。

 まじめなところばかり引用しましたが、一番共感したのは「がんばってください」という子どもの手紙に「でもね、わたしはがんばるのがきらいなのよ。」と答えているところだったりします。