『なりたて中学生 初級編』(ひこ・田中)

なりたて中学生 初級編

なりたて中学生 初級編

小学生から中学生になるという、避けようのない変化を描いた三部作の第1弾。主人公の成田鉄男は、微妙な距離の引っ越しをしたため、知り合いのほとんどいない隣の校区の中学校に入ることになります。通常よりも不安の多い進学になってしまった鉄男の運命やいかに。
この作品のコンセプトは、シミュレーションを綿密にして未知の世界への不安を持つ小学生の手助けをしようというもののようです。主人公を成田鉄男(なりたて)という名前にしたり、学校の名前を「どや」「せや」「なんや」というシリーズにしたりといったネーミングの遊びからも、これはリアリズムであることよりも学習教材であることを優先させているのだという意思が読み取れます。
進学にかかる費用を細かに提示したり、卒業式の場面で校長式辞・送辞・答辞を全文記述したりと、それを通過した側からみればくどいと感じられるような部分も目立ちます。しかしこれは、まだ経験していない小学生の読者からすれば、知らないことへの不安をやわらげる親切な仕様になっています。
なお、卒業式の場面では、送辞を読む5年生代表の名前が〈雪白ほのみ〉と、初代のパチモンのようなものにされています。このことも作品の虚構性を意識させる仕掛けになっていますが、同時に卒業式のような儀式自体の虚構性も暴き立てる効果を持っています。
儀式の虚構性を描くことは、それを意識できるようになった子どもの成長をも同時に描くことになります。小学校生活最後の時期を送る子どもたちは、変化の予感のなかで友人の新しい面を発見したり、自分を客観的にみつめる視点を獲得したりします。そういった変化を丁寧に描いているのも、この作品の魅力です。
ただ、そこもわざとくどくしているのがひこ・田中の芸の細かいところ。たとえば28・29ページの見開きでは、鉄男が自分の気持ちを客観視しているのはいいのですが、「〜オレがいた」という表現が5回も繰り返されていて、かなりくどいです。
このような手法が今後の展開にどう生かされてくるのか、続きが楽しみです。